吸音の知識

吸音とは

音に関して知識のある方は「吸音」と聞くと、その素材がどのように作用してどのような効果をもたらすか想像がつくだろう。しかし、「吸音」と初めて聞く人もまだまだ多い。
まず基本的な知識として音とは大きく分けて2種類に分類されるところから説明します。

音の伝わり方は2種類

1つは空気を伝播(伝わる)する「空気音」で、発せられた音は様々な方向に波のように広がっていきます。広がった先に物体があると、波がその物体に当たり反射して跳ね返っていきます。「空気音」の跳ね返り方は物体の形、素材などにより複雑に変わり、それが反響音となって室内に響いています。「空気音」という言葉からわかるように空気が無い真空の場合、空気音は伝播しません。「吸音」は「空気音」に対して有効な対策となります。

音の伝わり方

もう1つは物体を伝播(伝わる)する「固体音」で、物体と物体がぶつかることにより発生し、物体を媒体として音が広がっていきます。その広がり方は物体が繋がっていることが重要で、物体の素材や硬さに伝わり方が変わります。

「空気音」への対策、吸音と遮音

「空気音」と「固体音」それぞれ仕組みが違うので、もちろんそれに対する対処方法も違ってきます。ここでは「空気音」に関しての対処方法を具体的な例を挙げながら説明します。

吸音とは

吸音とはある素材に「音」が通過する際に音エネルギーが摩擦による熱エネルギーに変換されて減衰する現象です。海辺にある消波ブロックを想像してもらうとわかり易くなります。

遮音

消波ブロックに当たった波は様々な方向に分散し、ブロックとの摩擦で波の力が減衰していきます。吸音材も消波ブロックも音や波が入り込む隙間があります。この隙間=多孔質というのが、摩擦を引き起こしエネルギーが減衰する仕組みとなっています。吸音材のほとんどは多孔質素材でできており、吸音材単体の場合、空気が抜けるものが一般的です。

吸音するとどのような効果が得られるかは、イメージし難いところではあるが、例えて言うとトンネルで手を叩くと「パァァァァァァン」という響きが残りますが、それが吸音されていると「パァン」と響きが少なく聞こえる。これは手を叩いた直接音が少なくなっているのではなく、手を叩いた音がトンネルの壁面に何度も反射した反響が少なくなったことが原因となっています。数字で解かり易く例えると、音は1秒間に340m進むので、横幅10mのトンネルの端で手を叩いた時の直接音の反射回数が34回、壁面が吸音されているトンネルだと反射回数が10回と少なくなるということです。吸音により音の反射回数が少なくなると反響音がスッと早く無くなるような感覚になります。この早く音が無くなるという差が吸音によって得られる効果になります。

この反響音がスッと早くなくなる感覚を数値化したものを残響時間といい、残響時間が少なければ少ないほど反響音が無いことを表します。残響時間とは発せられた音が60dB減衰するのにかかる時間を表したグラフで周波数毎に残響時間が違います。例えばトンネルで1,000Hzの周波数の残響時間が2.0秒となっており、吸音パネルを設置したところ1,000Hzの周波数の残響時間が0.7秒になったとすると残響時間が-1.3秒下がったということになります。この残響時間の推奨値はその部屋の用途や規模(面積・容積)によって変わります。

では反響音を推奨値にすることにより、どのようなメリットがあるかというと、過度な反響音によって起こっていた耳障りな音が少なくなる、声の明瞭度が上がり、コミュニケーションがし易くなるなど音から来るストレスの軽減になります。しかし、吸音はすればするほど良いということではなく、推奨値以上に残響時間を減らしてしまうと逆に相手に声が伝わり難い環境になってしまうなど注意が必要となります。反響音というのは過度にあれば色々な弊害を及ぼすが、反響音が一切無いというのも生活する中で不快となり問題のある空間になってしまいます。用途や場所にあった適切な反響音であればその空間の居心地が良くなり、人間に良い効果をもたらします。

室内の反響音対策に吸音材や吸音パネルを使用するメリットは後付け可能という点があります。室内の反射面に吸音材や吸音パネルを設置することにより、反射面が非反射面になり、室内の過度な反響音は十分に抑えられます。壁や天井を壊したりすること無く、大掛かりな工事の必要がないので、すでに使用しているお部屋の反響音対策も比較的簡単に対応できます。

弊社で行っている簡易残響時間シミュレーションは図面から床・壁・天井の各表面積、容積を算出し、各面の仕上げ材からそのお部屋の現状の残響時間を算出します。その数値からどのくらいの面積吸音材を使用したらよいかを考えご提案します。簡易残響時間シミュレーションという可視化できる数値(グラフ)を用いてよりお客様にご理解頂けるように努めております。

導入前に吸音パネル
設置の効果が分かる!

遮音とは

遮音とはある素材が「音」を通過させずに遮る(反射させる)現象です。イメージとしては流れている水を堰き止める止水板を想像するとわかり易くなります。ある間から流れている水を止水板により、遮ってそれ以上流れるのを止めてしまう。遮音材もある間から漏れている音を遮ってそれ以上漏れないようにし、跳ね返しています。遮音材の素材は主に固い物が多く、重量があり密なものに遮音性がある場合が多くあります。

遮音

遮音するとどのような効果が得られるかは、例えば外からの音が100dB聞こえている状況で、ある遮音材を使用すると80dBにまで低減するとします。この100-80=20dBが遮音材で得られる効果ということになります。遮音の場合、dB(デシベル)での比較がし易いのでその性能比較も簡単となります。しかし、遮音に関しては色々な場所から音が入り込む要素があるため、遮音したい「音」がどこから、どのように聞こえてくるかをつきとめ、対処する必要があります。

例えばオフィスの隣の部屋からの音が聞こえる音漏れを遮音したい場合、考えられるのは隣の部屋と接している壁、天井裏などが考えられます。仮に隣の部屋と接している壁の遮音性が高くても天井裏から音が回り込んで隣の部屋の音が聞こえるという可能性も考えられます。この場合は天井裏での対処をしない限り、隣の部屋の音が入り込む状況となっており、部屋の壁の遮音性能を上げたとしても天井裏から音が入り込む可能性があるとあまり効果を発揮しない場合もあります。また住宅となると隣の部屋と接している壁、窓などがある開口部などが考えられます。壁自体の遮音性能がしっかりしていたとしても窓などの開口部から音が入り込む可能性が考えられます。

吸音とは違い、遮音は室内がすでに仕上がっている状態から対処するのがとても難しいと考えます。壁・天井・開口部など様々な箇所の遮音性能を総合し、室内外への音漏れが発生します。仕上がってしまってからの対処は大掛かりな工事を必要なケースが多くあります。

近年の高気密、高断熱の住宅では遮音性が高いものが多くあります。特にコンクリート造のマンションでは床・壁・天井は躯体のコンクリート、開口部は遮音性の高いサッシを使用し、内外への音漏れに関しては高い遮音性能があると言えます。しかし、外に音が漏れない分、室内側に反響音が過度に残ってしまう状況をよく聞きます。その場合は室内に吸音材や吸音パネルを設置することにより、改善が可能となります。

導入前に吸音パネル
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